「家賃を前払いすると節税対策になる」。こんな話を聞いたことがある人もいるでしょう。確かにその通りなのですが、家賃前払いで節税対策を図るためには6つの要件をすべて満たす必要があります。

気になる家賃前払いの要件のほか、家賃前払いのデメリットについて解説します。

1年間分の家賃前払いは節税対策になる

経営者の多くが気にしているのが、節税対策でしょう。しっかりとした税務知識があれば、会社により多くの利益を残しながら有利にビジネスを進めることができます。

 

節税対策の多くは「知っているか知らないか」という単純な問題。こうしたなか、「家賃前払いによる節税」をおすすめすることがあります。

 

「家賃前払い」は、簿記で言うところの「前払費用」となります。「前払費用」は名称の響きから“費用”だと勘違いしている人がいますが、そうではありません。役務提供を受けることを前提に前払いしているお金であるため、「資産」として計上されるのです。

 

いったん「資産」として計上した後、役務提供を受けるたびに費用として処理していくことになります。

 

言葉だけではわかりにくいので、実際に例を出して解説しましょう。

 

例えば、企業A(決算3月)が、3月末に月20万円の家賃を1年間分前払いしたと仮定します。この場合、前払費用は総額240万円となります。このときの簿記の処理について見ておきましょう。

 

3/31 前払費用240万円 現預金240万円

4/1 地代家賃20万円 前払費用20万円

 

※翌月以降も同様の処理を行います。

 

家賃前払いによる節税は6つの要件すべてを満たすことが必要

上述した会計処理を行った場合、20万円が費用として処理されます。しかし、企業Aは3月決算。もし黒字が出ており、節税対策を図りたい場合、家賃前払いをどのように活用すべきでしょうか。

 

実は、前払費用には特例があります。それは、「翌年1年間の家賃をまとめて費用計上してもよい」ということです。ここで特例を活用した場合の仕訳について見ておきましょう。

 

3/31 地代家賃240万円 現預金240万円

 

上記のように前払いした地代家賃を全額費用計上できるわけです。この仕訳を見れば、家賃前払いが節税対策に有効であると気づくでしょう。

 

ここで頭をよぎるのが「前払いするものは何でも前払い費用の特例が使えるのではないか」という疑問です。

 

例えば、1年間分の事務用品を3月末にまとめて購入した場合などです。結論から言うと、このような行為は特例には当てはまりません。このケースでは、通常通り、消耗品費として処理するのが適切です。

 

特例として認められるのは、以下の6つの要件すべてを満たしたものだけなので注意が必要です。

 

  • 一定の契約のもと、継続的にサービス提供を受けるものであること

⇒期間限定のサービスなどに要した費用では特例は使えません。

 

  • 支払日から1年以内に役務提供を受けるものであること

 

3.継続的に適用すること

 

4.重要性が乏しいこと

 

5.費用と収益が対応するような費用ではないこと

⇒例えば不動産業者が地主から土地を借りて、駐車場として貸し出すときに前払いを行っても特例で処理はできません。

 

6.当期中に支払いを行ったものであること

 

企業Aにおいては、上記すべての条件を満たしていることから、家賃前払いによって節税対策を図ることが可能です。この要件のなかで最も注意すべきなのは、「2.支払日から1年以内に役務提供を受けるものであること」でしょう。

 

例えば、1年と1カ月分の家賃を前払いした場合、特例は使えるのでしょうか。

 

このケースでは、役務提供を受けるのが1年以上となることから、特例は認められません。特例を活用する際は、「1年以内」であることをしっかりと覚えておきましょう。

 

なお、保険料や保守料、駐車場なども上記の要件に対応する場合、特例の対象となります。詳しくは会計士や税理士にお尋ねください。

 

家賃前払いにはデメリットもある

節税対策に有効な家賃前払いですが、デメリットもいくつかあります。

 

まずデメリットとして、頭に入れておきたいのが「資金が必要である」ことです。上述した企業Aの場合、家賃前払いを行うためには240万円の資金が必要です。資金繰りに余裕があればいいですが、そうでない場合は経営が困難になる恐れがあります。特例を利用する際は、資金繰りに十分に配慮しましょう。

 

もうひとつは「移転しにくくなる」ことです。特に新興企業で多い悩みです。急成長に伴い、広いオフィスに移転したいが、家賃を前払いしていることがネックとなってしまうケースです。家賃前払いは有効な節税対策ですが、資金繰りや事業の状況によってはデメリットになってしまうこともあるのです。

 

大切なことは、家賃前払いによる節税対策の中身についてしっかりと把握し、事業の将来を見通したうえで活用することです。短期的な節税に目を奪われることなく、熟慮して特例の活用を判断したいものです。

 

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