給与計算を行うためには、従業員一人ひとりについて、勤務状況はもちろん、手当や控除に関わるさまざまな情報を正確につかんでいる必要があります。

しかも、締め日から支給日まで、比較的短い期間で計算を済ませ、遅れることなく支給しなければなりません。

責任が重く手間がかかる業務

経営者にとって、給与計算は毎月こなさなければならない仕事のひとつです。労働契約によって決められた給与を期日までに間違いなく計算し、支給しなければなりません。

 

計算に誤りがあったり、支給が遅れたりすると、従業員の意欲の低下や経営者に対する不信感につながるおそれがあります。支給後には社会保険料の納付も伴うために、責任が重く、想像以上に手間がかかる業務でもあります。

 

給与計算は、およそ次の6つのステップで進めます。

 

  1. 総支出額の算出
  2. 控除額の算出
  3. 差引支給額の算出
  4. 給与台帳の記載
  5. 給与の支給
  6. 税金や社会保険料などの納付

 

給与計算を行うための準備

給与計算を行うためには、給与計算の基準となる就業規則などの整備や、年齢、通勤手段といった従業員個人の情報の収集・整理、さらに労働時間を正確に記録するタイムカードの導入などが必要です。

 

【就業規則などの整備】

常時10人以上の従業員がいる会社には、就業規則の作成義務があります。就業規則には給与規定として、給与計算の方法や支給日、手当の種類などを記載します。

 

10人未満の会社では就業規則の作成義務はありませんが、給与についての上記の内容を従業員に周知させることが必要です。

 

【従業員情報の収集・整理】

従業員一人ひとりについて、基本給の額や手当の種類を明記して、すぐに閲覧できるようにします。また、社会保険料の控除に関わる生年月日や家族構成、交通費の計算に必要な住所、通勤経路などもデータ化しておきましょう。

 

【労働時間の記録】

労働時間は、タイムカードやICカードなどに記録します。厚生労働省のガイドラインでは、出退勤時刻を従業員の自己申告にすると、労働時間の管理があいまいになりがちなので、タイムカードなどによる客観的な管理をすべきとしています。

 

給与計算の手順

給与計算は、下記の6つのステップで進めます。

 

  • 総支出額の算出

総支給額とは、社会保険料などを控除する前の給与の金額です。就業規則や給与規定、労働条件通知書、雇用契約などに記されている内容に従って、会社が支払う合計額を算出してください。

給与の項目は会社によって異なりますが、おおよそ下記の項目を確認します。

 

□基本給

基本給(本給)は毎月固定額で支払う給与で、出勤日数や労働時間数、営業成績などの影響を受けません。なお、昇給や降給など定期的な給与の見直しの際には、この基本給をベースにします。

 

□各種手当

精勤手当、役付手当といった労働に対して支払う手当の他に、通勤手当、家族手当、住宅手当、資格手当など、仕事とは直接関係がなく、従業員の条件によって支払われる手当があります。各種手当についても就業規則などに支給条件などを定めておきます。

 

□割増賃金

割増賃金は「残業手当」「休日出勤手当」「深夜手当」の3種類です。いずれも「1時間あたりの賃金×割増率×時間数」という計算式で算出するため、労働者ごとの1時間あたりの賃金を計算する必要があります。

 

月給制の従業員の場合、1時間あたりの賃金は、基本給と各種手当(割増賃金を除く)の合計を1カ月の平均所定労働時間で割ることで求められます。

 

欠勤、遅刻・早退に伴う「欠勤控除」については、労働基準法に規定がありません。このため、会社独自の規定を就業規則に掲載しているところもあります。

 

(2)控除額の算出

社会保険料や税金といった法定控除額、さらに社宅費、生命保険料、財形貯蓄、組合費など会社独自の天引き額を計算します。

 

社会保険料のうち、健康保険料、厚生年金保険料、介護保険料は労使が折半します。保険料率は協会けんぽや健康保険組合によって異なります。

 

厚生年金保険料率は、全国一律で「月額の標準報酬×18.3%」です。これらに対して、雇用保険は労働者が負担し、事業の種類に応じた保険料率が設定されています。

 

所得税額は、給与の総支給額から健康保険料、厚生年金保険料、雇用保険料、さらに非課税所得の通勤手当を差し引いた額を、「源泉徴収税額表(月額表)」に当てはめて税額を算出します。

 

(3)差引支給額の算出

「総支給額」から「各種控除」を引くことで、差引支給額が算出できます。

 

(4)賃金台帳の記載

賃金台帳に、氏名、性別、賃金計算期間、労働日数、労働時間数、残業・休日・深夜労働時間数、基本給、各種手当などの額を記載します。なお、賃金台帳については、労働基準法で作成が義務づけられています。

 

(5)給与の支給

差引支給額を労働者に支給します。労働基準法には、給与は原則として全額を現金で支払わなくてはならないとされています。銀行振込で支給する場合には、従業員の同意が必要です。

 

会社は振込銀行の指定はできず、振込手数料は会社負担となります。また、現在ではインターネットバンキングを利用する会社も多くなっています。

 

(6)税金や社会保険料などの納付

それぞれ定められた期間内に納付します。

 

・健康保険料:月初に送付される納付書で毎月10日までの間に納付。

・生年金保険料:月末までに納入告知書により納付。

・雇用保険料:例年6月1日から7月10日にかけて行われる労働保険の年度更新時に納付。

・所得税:翌月10日までに納付。

・住民税:翌月10日までに納付。

 

毎月の手間を軽減する

給与計算は締め日から支払日までの期間が短く、効率良く進めることが大切です。しかし、すべての従業員について複雑な計算をいくつも行い、ミスなく、期日までに作業を完了させるのは容易ではありません。

 

毎月のことなので、繁忙期ともなると経営者の負担はさらに大きくなります。会計ソフトを活用して、毎月の作業の多くを省力化することを考えてみましょう。

 

クラウド会計ソフトなら、手軽な費用で導入でき、税率や保険料率などの変更にもスピーディーに対応できます。インターネットバンキングと連携して、支払いまでを自動化することも可能です。

 

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