売上や支払給与が基準を超えると「消費税課税事業者」となり、消費税の納税義務が生じます。
消費税の経理処理には「税込経理方式」と「税抜経理方式」があり、仕訳の方法も異なります。それぞれにメリット、デメリットがあるので、どちらを選択するかは専門家に相談するのがよいでしょう。
「消費税課税事業者」とは
すべての個人事業者や会社に、消費税の納税義務があるわけではありません。一定の条件に当てはまった場合に「消費税課税事業者」となって、納税の義務が発生します。
消費税課税事業者になる条件は、事業開始の時期などによって異なります。
【1期目から消費税課税事業者になる条件】
・資本金1,000万円以上で会社を設立した場合
なお、個人事業者には資本金がないので、1期目は消費税課税事業者ではありません。
【2期目から消費税課税事業者になる条件】
・事業年度開始から6カ月間の「支払給与」と「課税売上高」の両方が1,000万円以上の場合
個人事業者も会社も、前年度の前半6カ月間を「特定期間」といい、この期間に一定基準に当てはまると次年度から消費税課税事業者となります。
【3期目以降に消費税課税事業者になる条件】
次の2つの条件のいずれかに当てはまれば、消費税課税事業者です。
・今期より2 期前の課税売上高が1,000万円以上
・特定期間の「支払給与」と「課税売上高」の両方が1,000万円以上
免税事業者になったら
前項で紹介した消費税課税事業者になる条件に当てはまらない個人事業者や会社は「免税事業者」といい、消費税の納税義務がありません。
ここで注意したいのは、消費税の納税義務はありませんが、さまざまな仕入れの支払いや経費として、実際には消費税を支払っているということです。このため、たとえ免税事業者であっても、請求には消費税をプラスする必要があります。免税事業者だからといって、「消費税は受け取りません」ということではないのです。
利益の出ている会社であれば、売上として入金されてきた消費税分の金額のうち、支払いに関する消費税分を差し引いた金額が結果として手元に残ります。
また、免税事業者は「税込埋込方式」という方法で経理処理を行うことが定められています。
詳しくは事項で解説しますが、税抜き金額と消費税額を合計した税込価格で仕訳を行うため、経理処理が簡便です。
なお、免税事業者が消費税課税事業者になった場合は、消費税課税事業者と同じ経理処理を求められるようになります。
「税抜経理方式」と「税込経理方式」
消費税課税事業者の消費税の仕訳には、「税抜経理方式」と「税込経理方式」という2種類の方法があり、どちらかを選択できます。
税抜経理方式は、売上や仕入に消費税額と地方消費税額を含めずに経理処理を行う方法です。
税込経理方式は前項で紹介したように、売上や仕入に消費税額と地方消費税額を含めて経理処理を行う方法です。いったん、どちらかの方式を選択すると、次期以降も原則同じ方式で経理処理を行う必要があります。
両方式の違いを見てみましょう。
例えば、10,000円の仕入れ(消費税額800円)を経理処理する場合、それぞれの方式での仕入時の仕訳は下記のようになります。
※なお免税事業者の場合は税抜経理方式は採用できません。
【税抜経理方式】
(借方)仕入 10,000円 (貸方)買掛金 10,800円
仮払消費税等800円
【税込経理方式】
仕入時:(借方)仕入 10,800円 (貸方)買掛金 10,800円
【税抜経理方式のメリット・デメリット】
消費税専門の勘定科目を用いて経理処理を行うので、消費税の納税額の見通しを立てやすいのがメリットです。
【税込経理方式のメリット・デメリット】
日々の経理処理が簡便というのがこの方式のメリットです。しかし、売上高に消費税分が含まれているので、実際の金額よりも大きい数字となり、売上が多いような錯覚を招くおそれがあります。消費税の納税額の見通しも立てづらくなります。
決算時の処理も違う
税抜経理方式と税込経理方式とでは、決算時、消費税納付時の経理処理の方法も異なります。
【税抜経理方式】
決算時に、今期に発生した「仮受消費税」と「仮払消費税」を相殺する処理を行います。
前項の「10,000円の仕入(消費税額800円)」と「15,000円の売上(消費税額1,200円)」というケースで見てみましょう。
□仕入時
(借方)仕入 10,000円 (貸方)買掛金 10,800円
仮払消費税等800円
□売上時・決算時
(借方)売掛金 16,200円 (貸方)売上 15,000円
仮受消費税1,200円
□決算時
(借方)仮受消費税1,200円 (貸方)仮払消費税 800円
未払消費税400円
□納付時
(借方)未払消費税400円 (貸方)普通預金 400円
※わかりやすくするため、消費税は「原則課税方式」で計算しています。
【税込経理方式】
消費税を租税公課勘定に計上します。
□決算時
(借方) 租税公課 400円 (貸方) 未払消費税 400円
□納付時
(借方)未払消費税 400円 (貸方)普通預金 400円
「原則課税」と「簡易課税」
消費税額の計算方式は「原則課税方式」と「簡易課税方式」のいずれかを選択します。
【原則課税】
売上として預った消費税から、仕入や経費に関して支払った消費税を差し引いた残額を納税します。
【簡易課税】
売上として預かった消費税に、業種ごとによって決められた一定の「みなし仕入れ率」をかけて消費税額を算出、納税します。
中小企業の経理業務を軽減するための方式で、選択できるのは基準期間の課税売上高が5,000万円以下の場合のみです。また、選択する課税期間開始日の前日までに「簡易課税制度選択届出書」を提出します。
どちらの方式が適しているか、メリットが多いのかは、翌期の売上予想や支出の予定などによって異なります。的確な選択をするためには、税理士など専門家のアドバイスを受け、試算を行うことをおすすめします。
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